ちょっとひといき連載「あこがれの大家さん」③

 

「私には娘と息子がいるが、どちらも継ぐ気はなくて、私が死んだあとこのアパートはどうなるか心配でね。」

と、大家さんは悩みを打ち明けてくれたけど、まだ世の中のことを知らない社会人3年目のサラリーマンの僕には

アドバイスすらできないのが申し訳なかった。

人はいつか亡くなるけど、財産がたくさんある人はそれはそれで大変なんだな～と１つ勉強になった。

 

ある日僕はコロナのワクチン接種のため病院に行った。１回目だ。

副反応のことを心配しながら順番を待っていると大家さんを発見。受付に立っていて後ろ姿だが間違いなく大家さんだ。

「よ～し、今日こそは僕のほうから元気に挨拶をしよう」と思ったが一瞬目をそらしたそのあと

「お～福山さん、こんにちは！」

あ、またまた先を越された(・_・;)

 

「大家さんもワクチン接種ですか？」

「いや～、健康診断に来たんです。

　おかげさまで健康なんやけど早期発見が大事やし定期的に診断してるよ。

　まだ元気でアパートの管理しないといけないからね。」

「そうですよね！」

健康第一ということは僕も知っているけど、忙しいのをいいわけに健康に気をつける余裕はないな～(^^;

 

「ところで、大家さんはアパートの管理って何年やっているんですか？」

「６０の定年退職のときからやから、もう１４年かな。私もアパートも元気でいてくれないとね。」

大家さんは毎日掃除や花壇のお世話をしてくれているので、アパートはきれいに保たれていると思う。

いつだったか大家さんはアパートの壁に水をかけて洗っていた。お手入れは大事だ。

「でもね、１４年も経つと建物も傷んでくるっていうし、素人には分からないからね～」

「大家さん、体と一緒でアパートも健康診断が必要かもしれませんね。」

「気にはなってはいるけどね。」

 

 

（つづく）