ちょっとひといき連載「あこがれの大家さん」①

 

「あ～、遅刻する～！」

急いで部屋を飛び出し、アパートの花壇の前を通ると大家さんが「おはよう～！」と爽やかに挨拶をしてくれた。

「あ、おはようございます！」僕も早口で挨拶をした。大家さんの声はなんか温かい。

 

そういえば、僕が幼稚園のとき、園の門の前でぽっちゃりとした園長先生（男性）が「おはよう～」と温かい声で

僕たちを出迎えてくれていた。そのとき僕は園長先生に挨拶を返してなかったなあ～と今さら思った。照れくさかったのかな。

あの園長先生と大家さんがダブって見えた。今の僕は元気に挨拶を返していた。気持ちのいい朝だ。

 

ある日曜日、朝ご飯（すでに10時を回っていたが）を買いに近所のコンビニに向かっていた。

いつもと違う道を通ると10メートルほど前に見覚えのある70代ぐらいの男性がいた。

「あ！大家さんだ」

 

鉄筋コンクリート3階建ての家の前でホースで花に水をかけていた。

元気に挨拶をしようと近づいていくと大家さんが振り返った。

「お～、福山さん、おはよう～！」

「あ、おはようございます」・・・先を越された(^-^;

 

「大家さん、ここに住んでいたんですね」と僕は3階建ての家を見上げた。「大きなお家ですね～」

「あ～、以前は家族も多くてちょうどよかったんやけど、今は家内と2人暮らしやわ。」

大家さんも3階建ての家を見上げた。

 

少し雑談をしたあと、ふと聞いた。

「やっぱり大家さんってこんな大きな家に住めるんですね。」と言ったあと「あ、ちょっと失礼やったかな」と後悔した。

「いや～、はたからは悠々と見えるかもしれんけど、これでなかなか大家さんも大変なんや。悩みもいろいろあるんやわ」

僕は心の中で考えた。「大家さんになんの悩みがあるんやろ？」

その日、いくどか思い出して考えたけど出てこなかった。

 

 

（つづく）